想ひ火

寺本祥生の世界

  冬です

雪虫がチラチラと北風に乗って翔むできた
冬の寒さも強まったり緩まったり
一進一退を繰り返し冬が続いている
春はもうすぐ先の事と云われても、その実感が湧いてこない
でもやがては春は来るのだろう
否、春を飛ばして夏が姿をちらつかせてくるのだろうか
春が一瞬でもその姿を表に現すのなら
それが今では当たり前の事になっているのかもしれない
春が当然のようにやって来るとは限らないのだ



  春を待ち望む地虫が春を待っている
  春を待ち望む地虫は春を待っている

 ゆきんこ 雪子 君に捧ぐ

 雪が降る
 雪が降る
 天気予報通り雪が降っている


 昔
 やはり雪は降っていた
 夜の暗さの中で雪が街の灯りを反射し、妙に明るさを保っていた
 風は強く雪が上から下ではなく横殴りに降っていた
 そんな雪道を一人とぼとぼと歩いていた


 雪子、彼女の面影が脳裏に浮かび上がっている
 おまえを汚したわたしには罰が与えられ
 おまえの前からわたしは姿を消さざるを得なかった
 ゆきんこのように雪子が消えたのではなく、わたしが消えていた
 雪の中の雪子は、今どうしているのだろう
 わたしがわたしで在るように
 雪子、あなたもあなたとして今は在るのだろう

  愚  痴


 やっちまったなあ。
 やっちまったんだよ。
 根切虫の奴がやっちまったんだよ。
 俺の大事な比奈の作ろうとしているキャベツの根を、
 と云うよりも根元の茎を食っちまったんだよ。
 それで比奈が怒っちまって、俺に八つ当たりしてくるんだよ。
 まあ、八つ当たりと云っても比奈の事だから、
 俺にとってはどうって事もないんだが。
 ようはどうやって根切虫を退治するかだ。
 比奈と二人で何とかしなくちゃいけない。
 頑張ってみようとおもっている。