想ひ火

寺本祥生の世界

   御告げ

 枯れた風の通り道に風を待つ吟遊詩人が、一人佇むでいた
 今の彼は詩(うた)を詠えない
 詠えなくなって時も久しい中、
 寝付けない或る夜、漸く眠りに付けた夢の中で御告げを受けた
 夢の中で天から聲が降ってきたのだ
 「 今の汝は詩を詠えない 」
 「 このままでは汝は生きてもいけないだろう 」
 「 余が汝に申し付けよう 」
 「 汝の家の北西の方向に枯れた風の通り道が在る 」
 「 其の風の通り道が枯れたのも、汝が詩を詠えなくなった故である 」
 「 余が汝の詠いを止め、同時に風も止めたのだよ 」
 「 汝は其の風の通り道で風を待つが良い 」
 「 其処で余が時する時を待つが良い 」
 「 其の時が満( みつる )時、風は吹き、風は流れ始め、汝も詠えよう 」
 
 以後彼は今も猶、其の風の通り道に佇むでいる

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