想ひ火

寺本祥生の世界

2023年3月21日 午後 雨

 春の雨は優しいと云ふ


 今日、雨が降っている


 冬の冷たさを感じない暖かい雨が降っている


 芽吹く数々の生命にとっての恵みの雨だ


 春麗の今日、雨が降っている


 春雨が降っている


 暖かい雨が降っている


 此の儘濡れていよう

薄明の麗人

 夜明け前の空に浮かび、西の空を下る下弦の月


 空の明るさが増す中、細身の躰がうっすらと浮かび上がっている


 つい先日のその姿は、ほぼまん丸い躰つきだった


 それが見る影もない細身になっている


 ・・・等と思いを巡らしながら時を費やしていると


 先程よりも少し細くなっている


 そんな事に気が付いて注意深く観察する


 時間の経過と伴に少しずつ細くなっている



 
 もう今では明るくなりかかった空の中に消え入りそうだ


 これ以上、やせ細れない程の薄っぺらい躰が、うっすらと天空に残っている


 見えるか見えないかの姿形に、消え行く月は明るくなった空の中に溶け込むでしまう


 空を下り終わる前に、形を失った月は空の中に溶けてしまった

 土  筆

 ツクツク、ツクツクと伸びる杉菜の子
 短い春を勤しむかのように伸びている


 春をあなたと二人で楽しもうと春麗の土筆摘み
 夕餉の春の一品にと二人で土筆摘み
 下拵えの煩わしさに負けじと頑張った


 出来上がり、更に盛ってみれば何とも稀少なり
 二人で何とか食べ分けて
 一頻りの楽しき夕べかな
 短い春を楽しもう
 否々、此の量だと名残惜しさに未練が残る