想ひ火

寺本祥生の世界

 ゆきんこ 雪子 君に捧ぐ

 雪が降る
 雪が降る
 天気予報通り雪が降っている


 昔
 やはり雪は降っていた
 夜の暗さの中で雪が街の灯りを反射し、妙に明るさを保っていた
 風は強く雪が上から下ではなく横殴りに降っていた
 そんな雪道を一人とぼとぼと歩いていた


 雪子、彼女の面影が脳裏に浮かび上がっている
 おまえを汚したわたしには罰が与えられ
 おまえの前からわたしは姿を消さざるを得なかった
 ゆきんこのように雪子が消えたのではなく、わたしが消えていた
 雪の中の雪子は、今どうしているのだろう
 わたしがわたしで在るように
 雪子、あなたもあなたとして今は在るのだろう

  愚  痴


 やっちまったなあ。
 やっちまったんだよ。
 根切虫の奴がやっちまったんだよ。
 俺の大事な比奈の作ろうとしているキャベツの根を、
 と云うよりも根元の茎を食っちまったんだよ。
 それで比奈が怒っちまって、俺に八つ当たりしてくるんだよ。
 まあ、八つ当たりと云っても比奈の事だから、
 俺にとってはどうって事もないんだが。
 ようはどうやって根切虫を退治するかだ。
 比奈と二人で何とかしなくちゃいけない。
 頑張ってみようとおもっている。

月の女神からの贈物


   君が名に於いて


    君ならばこそ


     果てぬ想ひは


      月の女神が雫の


       光り輝く君に在り




 ( 注 ) 凍てつく冬の透き通った月は美しい。
       其の冬の月の光の雫が地上に降り立つやいなや、
       地表に砕け散る様は宝石が砕け散るが如く、
       光に溢れ輝いていた。